スピーカーやアンプを替えたとき、私はいつも同じような曲に戻ってきます。
もちろん、音質を確認するためだけに音楽を聴いているわけではありません。むしろ逆で、好きで何度も聴いてきた曲だからこそ、「あれ、いつもと違う」と気づきやすいのだと思います。
その中でもクラシックは、オーディオを聴き比べるときに本当に便利です。
ヴァイオリン1本の音から、大編成のオーケストラまである。静かなピアニッシモから、一気に押し寄せてくるフォルテまである。楽器の位置、ホールの広さ、低音の量感、弦の質感、ピアノの余韻――1曲の中に確認できる要素がたくさんあります。
現在の私のメインシステムは、B&W 705 S3とDENON PMA-2500NE。WiiM Ultraによる配信再生と、DCD-1700でのCD・SACD再生を使い分けています。
今回は、私が実際に聴いてきたクラシックの中から、オーディオの試聴にも使いやすい10作品を選びました。
「高音質盤だから」という理由だけではありません。
音楽として好きで、また聴きたくなる。そして機材を替えたときには、その違いも分かりやすい。
私にとってのリファレンス音源は、そんな曲です。

私がクラシックをオーディオ試聴に使う理由
クラシックを聴いて面白いのは、単純な「低音が出る」「高音がきれい」という話だけではありません。
オーケストラなら、手前と奥に並んだ楽器がきちんと分かれて聴こえるか。ピアノなら、鍵盤を叩いた瞬間だけでなく、そのあとに音がどう消えていくか。ヴァイオリンなら、弦の芯だけでなく、その周りの響きまで自然に感じられるか。
私がB&W 705 S3を気に入っている理由の一つも、まさにこの部分です。
クラシックを聴くと、音が左右に並ぶだけではなく、奥行き方向まで含めて空間が見えやすい。以前使っていた705 S2 Signatureから替えたとき、私が最も大きな違いとして感じたのも音場と定位でした。
私は、オーディオの良さは「音が派手になったか」より、演奏している空間や楽器同士の関係が自然に感じられるかで判断することが多くなりました。
では、実際に聴いている10作品を紹介します。
1.ラヴェル《ボレロ》|ピエール・ブーレーズ
最初はラヴェルの《ボレロ》。
私が聴いているのは、ピエール・ブーレーズ指揮の演奏です。
《ボレロ》がオーディオ試聴に面白いのは、曲の仕組みそのものです。
同じリズムと旋律を繰り返しながら、担当する楽器が変わり、少しずつ編成が大きくなっていく。
そのため、音量が増えただけなのか、それとも楽器の数や音色の違いまできちんと聴き分けられるのかを確認しやすい曲です。
最初の小さな音をどこまで自然に拾えるか。そして終盤、大編成になっても音がひとかたまりにならないか。
スピーカーの解像度だけでなく、アンプの余裕や音場表現まで見えてきます。
静かな冒頭から大きなクライマックスまで、システム全体を一曲で見られるのが《ボレロ》の面白さです。
2.ヴィヴァルディ《四季》|レイチェル・ポッジャー
ヴァイオリンの音を聴きたいときに選ぶのが、レイチェル・ポッジャーの《四季》です。
大編成のオーケストラとは違い、こちらで気になるのはヴァイオリンの質感と、複数の弦楽器が重なったときの分離。
ヴァイオリンはオーディオによっては高域が強く感じられることがあります。
特に私のシステムはB&W 705 S3とPMA-2500NEの組み合わせですから、高域をきれいに伸ばしながらも、耳に刺さる方向へ行っていないかは気になるところです。
ただし、単に高域が丸ければいいとも思っていません。
弓が弦に触れた瞬間の勢い、音色の細かな違いまで消してしまったら、今度は音楽がつまらなくなる。
高域を抑え込むのではなく、ヴァイオリンらしい鮮やかさを残したまま気持ちよく聴けるか。私はそこを大切にしています。
3.ムソルグスキー/ラヴェル編《展覧会の絵》|フリッツ・ライナー
フリッツ・ライナー指揮、シカゴ交響楽団の《展覧会の絵》も外せません。
この曲はオーディオで聴くと本当に面白い。
冒頭の「プロムナード」から管楽器の存在感があり、その後は曲ごとに色彩がどんどん変わります。
そして最後の「キエフの大門」。
ここでは低域、金管、オーケストラ全体のスケールが一気に押し寄せてきます。
低音が多いだけでは駄目で、大きな音になっても個々の楽器が埋もれず、音場そのものが大きくなるかを聴きたい曲です。
大編成で音が混濁するシステムと、音数が増えても奥行きを保てるシステムでは、この曲の印象がかなり変わります。
4.ベートーヴェン《ピアノ・ソナタ第14番「月光」》|アリス=紗良・オット
ピアノなら、アリス=紗良・オットのベートーヴェン《月光》です。
この曲で私が大切にしたいのは、派手さではありません。
第1楽章の静かなピアノ。
鍵盤を叩いた瞬間よりも、そのあとに残る響きや倍音、そして音と音の間にある静けさです。
ピアノは一台しか鳴っていないのに、いい状態で聴くと意外なほど空間が広い。
ピアノの音だけを追うのではなく、その音が消えていく場所まで聴きたい。私にとって《月光》はそんな曲です。
705 S3でクラシックを聴いていて嬉しいのも、こういう小さな響きが空間の中に残るところです。

5.J.S.バッハ《ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV 1042》|ヒラリー・ハーン
ヒラリー・ハーンの演奏で聴いているのが、バッハの《ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV 1042》です。
ヴァイオリン独奏とオーケストラの関係を聴くのに使いやすい曲です。
独奏ヴァイオリンだけが前へ飛び出しすぎないか。その後ろの弦楽器が一枚の壁のようにならず、一つひとつの動きが感じられるか。
音が細かく見えるシステムほど、「解像度が高い」という言葉だけで済ませたくなくなります。
大切なのは、細かく聴こえることと音楽が自然に流れることが両立しているかどうか。
私はそこを気にします。
6.エルガー《チェロ協奏曲 ホ短調 Op.85》|ジャクリーヌ・デュ・プレ
チェロなら、ジャクリーヌ・デュ・プレのエルガー《チェロ協奏曲》。
チェロは、スピーカーの中低域を考えるときにとても面白い楽器だと思います。
低い音まで出るからといって、ただ太ければいいわけではありません。
胴鳴りの厚みがありながら、弓で弦を擦る感触や音程がぼやけないこと。
私自身、オーディオでは低域の「量」だけより、厚みがあっても動きが分かる音のほうが好きです。
PMA-2500NEや電源ケーブルを替えてきたときにも、この「厚み」と「解像感」の両立はずっと気になってきました。
チェロが太く鳴ることと、チェロが生々しく聴こえることは同じではありません。
7.ショパン《ピアノ協奏曲第1番》|クリスチャン・ツィメルマン
クリスチャン・ツィメルマンのショパン《ピアノ協奏曲第1番》。
ツィメルマンの第1番と第2番は、どちらもよく聴きます。
ピアノ協奏曲の面白さは、ピアノだけの録音とは違うところです。
ピアノが前にあり、その後ろにオーケストラが広がる。
その前後関係が感じられるかどうかで、音場の見え方がかなり変わります。
ピアノだけがスピーカーの前へ張りつき、オーケストラも同じ平面で鳴ってしまうと、せっかくの協奏曲が少し窮屈に感じます。
主役のピアノをしっかり描きながら、その後ろの世界まで見えるか。
第1番ではそこを楽しみます。
8.ショパン《ピアノ協奏曲第2番》|クリスチャン・ツィメルマン
同じツィメルマンでも、第2番は第1番とは別に挙げたい作品です。
同じ演奏者、同じ作曲家だからこそ、機材の違いを判断するときにも便利です。
ここで面白いのは、ピアノの強い打鍵だけではありません。
弱い音の表情や、オーケストラへ溶け込むような場面がきれいに出るか。
オーディオを始めたころは、大きな音や低音の迫力に耳が向きがちでした。
でも、いろいろな機材を使ってきた今は、小さな音を小さいままきれいに聴かせてくれるシステムのほうが、長く音楽を聴いていたくなると感じます。
9.ホルスト《惑星》より「火星」|ポール・フリーマン指揮/チェコ・ナショナル交響楽団
アンプの違いを強く感じた曲として忘れられないのが、ポール・フリーマン指揮、チェコ・ナショナル交響楽団によるホルスト《惑星》の「火星」です。
以前、DENON PMA-900HNEからPMA-2500NEへ替えたときにも、この曲を聴きました。
そのとき私が感じたのは、とにかく迫力が大きく増したこと。
「火星」は低域だけを確認する曲ではありません。
執拗に続くリズム、その上に重なる金管や弦、そして全体が巨大になっていく感覚。
アンプをPMA-2500NEへ替えたときは、低域だけでなく高域もかなり前へ出てきました。
良くなった部分だけではありません。
機材を替えれば、バランスそのものが変わる。
それを実感した曲でもあります。
私にとって「火星」は、迫力を見る曲であると同時に、空間の広がりや楽器の位置、システム全体の音のバランスを確認する曲です。
▶ PMA-900HNEからPMA-2500NEへの買い替え比較
10.J.S.バッハ《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》|イザベル・ファウスト
最後はイザベル・ファウストのバッハです。
《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》。
オーケストラの巨大なスケールとは正反対。
鳴っているのはヴァイオリン一本です。
だからこそ、ごまかしがありません。
音の立ち上がり、弦の質感、倍音、空間へ消えていく余韻。
そして無伴奏なのに、きちんと鳴ると音楽が痩せない。
私はオーディオを評価するとき、低音がたくさん出ることや音数が多いことだけが「良い音」だとは思っていません。
ヴァイオリン一本を聴いて、それでも音楽の世界が十分に広く感じられる。そんなシステムのほうが私は好きです。
まず1曲聴くなら、私は《火星》をおすすめします
この10作品の中から、オーディオの試聴用として最初に1曲だけ選ぶなら、私はホルスト《惑星》の「火星」をおすすめします。
理由は、最初にシステム全体の空間表現を見たいからです。
交響曲を聴くと、左右への広がりだけでなく、前後の奥行きや、それぞれの楽器がどこで鳴っているのかという音像が分かりやすい。
私が理想だと思うのは、楽器の位置が分かるだけではありません。
オーケストラが鳴っている空間そのもの、その場の空気まで伝わってくるように感じられるシステムが、私にとって理想です。
「火星」は音数も多く、ダイナミックレンジも大きいので、低域の迫力だけでなく、音場、定位、各楽器の分離、全体のスケール感までまとめて確認できます。
まずここでシステム全体を聴く。
その次に聴くなら、レイチェル・ポッジャーのヴィヴァルディ《四季》から**「夏」か「冬」**を選びます。
こちらでは大編成の迫力より、弦楽器へ耳を向けます。
弓が弦を捉えた瞬間の音、ヴァイオリンの音色、細かな音の立ち上がり。そして速いパッセージで音が遅れず、気持ちよく進んでいくか。
《火星》で空間表現と音像を聴き、《四季》の「夏」または「冬」で弦の音色とスピード感を聴く。
私はこの順番なら、システムの特徴がかなり見えてくると思っています。
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気に入った演奏が見つかったら、CDやSACDを探してみるのも面白いと思います。
配信とディスクでは盤やマスターが異なる場合もあるので単純な音質比較にはできませんが、同じ作品を違う再生方法で聴いてみるのもオーディオの楽しみの一つです。
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まとめ|私にとってリファレンス音源とは「また聴きたい曲」
オーディオのリファレンス音源というと、優秀録音盤や派手な低音が入った曲を探したくなります。
それも面白いと思います。
でも、私が最終的に何度も戻ってくるのは、結局好きな音楽です。
良いリファレンス音源とは、音質を確認したあと、そのまま最後まで聴いてしまう曲なのだと思います。
機材の音を確認するために再生したはずなのに、途中からオーディオのことを忘れて音楽を聴いている。
私にとっては、その状態が一番いい。
好きな音楽を、もっといい音で。
今回の10作品の中に気になる曲があれば、自分のシステムでも聴いてみてください。
